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<< 戻る 2012年8月30日


次世代パワーデバイス用SiCの欠陥構造の解明 特異な転位の存在の直接的証明に世界で初めて成功


 炭化珪素(SiC)結晶の螺旋転位とよばれる欠陥の特異な構造を解明した。本研究成果は9月25-27日に京都で開催されるSSDM2012で発表する。

 ガソリンの価格の高騰や原子力発電所の事故によって、自然エネルギーを利用した発電が重要になってきている。しかし太陽電池など自然エネルギーで作った電力は直流のものが多く交流に直して使わないといけない。そのためには、インバータと呼ばれる装置が必要になってくる。このインバータはシリコンと呼ばれる材料で作られてきたが、最近の用途を満たすだけの性能を引き出すことは難しい。

 代わりの材料として炭化ケイ素(SiC)と呼ばれる材料が注目を集めている。SiCでインバータを作ると電力消費を小さくできるので、無駄になる電気エネルギーを1/10にすることができる。また、高温でも安定して動作するため冷却設備がいらず、同じ容量でサイズは数百分の1になる。これを使うと、太陽光発電で作った電力を無駄なく使ったり、電気自動車やハイブリッド車の燃費を小さくすることができる重要な材料である。

 SiC結晶の中に欠陥があると設計通りの性能が発揮できず、短寿命化、不良率の上昇などが起き、高品質なものを低コストで作ることができない。欠陥を減らすためには欠陥の構造を正確に知ることが第一歩となる。欠陥の一種であるらせん転位は、欠陥の延びる方向と結晶のずれ(変位)が同じと考えられているが、SiC結晶内を貫通するらせん転位には、欠陥の延びるc軸方向に加えてc軸に垂直な方向(a軸)の変位も併せもつ特異な転位があることが示唆されており、この欠陥はインバータの性能を損なうキラー欠陥と考えられる。しかし、この欠陥の存在が明確には証明されていなかった。

 そこでJFCCではトヨタ自動車株式会社、株式会社豊田中央研究所と共同で、透過型電子顕微鏡を使った解析方法-大角度収束電子線回折法と呼ばれる方法−を用いてらせん転位の構造を評価した。この方法で転位を観察すると、図の転位(矢印Dの線)のまわりに干渉縞が現れる。この縞の数(図中n)と観察に使った結晶面(図中g)と転位の変位(b バーガースベクトル)にはg・b=nという決まった関係がある。図(a)−(c)の観察で3式が立つので、この連立方程式を解くと転位の変位bが決まる。この解析によってc軸方向だけではなく、a軸方向にも変位をもつ転位があることが証明された。異方性の大きなSiC結晶中にこのタイプの欠陥が存在することは、従来の理解の範疇では考えにくく新たな知見である。詳細は、9月25-27日に京都で開催されるSSDM2012で報告する。

 本手法は欠陥のバーガースベクトル*の方向だけではなく、向きと大きさまで正確に決めることができることが特長である。

 欠陥構造の解明によってSiC材料中の欠陥密度の低減がなされ、SiCの品質、装置の性能および寿命が向上し、低価格化が進むことが期待される。



* バーガースベクトル 線欠陥(転位)の結晶の変位の向きと大きさを示すベクトル


<本研究に関する連絡先>

(財)ファインセラミックスセンター 主任研究員 石川 由加里
TEL : 052-871-3500、FAX : 052-871-3599、E-mail : yukari@
(※メール発信は@の後ろに jfcc.or.jp を付けて送付ください)

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