< 概要 >
JFCCナノ構造研究所、トヨタ、東大、東北大の研究グループは、技術開発競争が激化しているリチウムイオン電池の特性を決定付けるリチウムイオン原子の直接観察に世界ではじめて成功したと発表した。この成功により、これまでリチウムイオン電池の分野において不明であったリチウムイオン伝導機構や電池劣化メカニズムなどが明らかになり、電池材料開発のブレークスルーになることが期待されている。本研究の成果は、5月24日から名古屋国際会議場で開催される日本顕微鏡学会で発表される予定。
リチウムイオン電池は、携帯電話やパソコンのバッテリーとして広く用いられている。近年では電気自動車用バッテリーとしての研究開発も盛んに行われており、世界各国でその開発技術競争が激化している。リチウムイオン電池の性能はその正極活物質に大きく依存しており、リチウムコバルタイト(LiCoO2)が主に用いられている。しかし、安定性、寿命や信頼性などに問題があり(日本メーカー品でも近年発火事故を起こして社会問題になったことがある)、現在そのメカニズムの解明や安定したリチウムイオン電池の研究開発が急ピッチで行われている。正極活物質の性能はリチウムイオンの挙動と関係しており、リチウムイオン原子の可視化がキーテクノロジーとされており、世界中の研究機関でその可視化に関する研究が盛んに行われている。しかし、リチウムイオンの原子番号は3番と小さいために直接観察することは困難であり、技術的には難しいと考えられていた。
今回、同グループは、昨年東大/JFCC/日本電子が開発した新原理軽元素観察手法(図1:角度分割環状明視野法)を用いて層状構造を有するリチウムコバルタイト(図2)中のリチウムイオンの同定に挑戦した。その結果、図3の電子顕微鏡像に見られるようにコバルトイオン、酸素イオンに加え、リチウムイオン一個一個を直接鮮明に観察することに成功した。本観察は、JFCCナノ構造研究所に導入された最高性能球面収差補正走査透過電子顕微鏡(STEM, Scanning Transmission Electron Microscope)を用いることで行われたものであり、世界ではじめてその観察に成功したことになる。この技術の特徴は、走査透過電子顕微鏡のレンズに球面収差補正を行うことで1オングストローム以下の分解能を達成すると供に、理論計算を用いてリチウムの原子が観察できる検出角度を決定して観察することではじめて可能となることである。本結果より、リチウムイオン拡散メカニズムが明らかになり、リチウムイオン電池開発にさらに拍車がかかるものと期待されている。すなわち、電池材料開発の分野に新たなブレークスルーを起こすことが大いに期待されている。 |