次世代パワーデバイス用SiCの欠陥検出方法の開発
~世界初、SiCデバイスの品質向上に大きく貢献~
2012年7月26日
Press Releases
2012年7月26日
炭化珪素(SiC)結晶の新たな品質検査方法を開発した。本研究成果は9月2-6日にロシアのサンクトペテルブルグで開催されるECSCRM2012で発表する。
ガソリンの価格の高騰や原子力発電所の事故によって、自然エネルギーを利用した発電が重要になってきている。しかし、太陽電池など自然エネルギーで作った電力は直流のものが多く交流に直して使わないといけない。そのためには、インバータと呼ばれる装置が必要になってくる。このインバータはシリコンと呼ばれる材料で作られてきたが、最近の用途を満たすだけの性能を引き出すことは難しい。
替りの材料として炭化ケイ素(SiC)と呼ばれる材料が注目を集めている。SiCでインバータを作ると電力消費を小さくできるので、無駄になる電気エネルギーを1/10にすることができる。また、高温でも安定して動作するため冷却設備がいらず、同じ容量でサイズは数百分の1になる。これを使うと、太陽光発電で作った電力が無駄なく使われ、また、電気自動車やハイブリッド車の燃費を小さくすることができる重要な材料である。
SiC結晶の中に欠陥があると設計通りの性能が発揮できず、短寿命化、不良率の上昇などが起き、高品質なものを低コストで作ることができなくなる。ところがこの欠陥を簡単に低コストで調べることが難しく、場合によっては大型放射光施設で調べる必要がある等、材料の品質の評価を気軽にすることが難しかった。この問題を解決するためにJFCCでは欠陥の部分を選択的に腐食する腐食融液を開発し、品質評価を可能にした。残念ながらこの方法はSiC結晶のSi面と呼ばれる面にだけ使えるもので対向面であるC面の評価はできなかった。
そこでJFCCではトヨタ自動車株式会社と共同で、簡単に欠陥のある場所、種類、密度を見分けることのできる腐食ガスエッチング法を開発した。このエッチング法は図2に示す様にKOHの蒸気にガスに結晶をさらす方法であり欠陥のある所は弱いので腐食されやすく、窪み(ピット)ができるので、この窪みの位置や数、形で欠陥の場所や種類そして密度がわかる方法である。この腐食ガスの種類や、温度を検討し欠陥を検出する方法を開発した。詳細はECSCRM2012で発表する。
この方法でSiC材料を評価した顕微鏡写真を図3に示す。図3には大小2種類の六角形の黒い窪みが見える。大きな六角形は貫通らせん転位、小さな六角形は貫通刃状転位と呼ばれる欠陥が示されている。この2つは装置性能を低下させるが、有害度は低い。三角形に見えるものは基底面転位と呼ばれる欠陥でこれがデバイス性能を低下させる今一番問題となっている欠陥である。この様に欠陥の種類、数、場所を簡単に見分けることができる技術である。この技術によってSiC材料の品質、装置の性能、寿命が向上し、更なる低価格化が進むことが期待される。
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研究担当者
材料技術研究所 石川由加里(いしかわゆかり)