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<< 戻る 2015年6月30日


高感度電子線ホログラフィーを用いて、薄膜太陽電池内部の電位分布を定量的に計測することに成功【世界初】


 太陽電池の発電特性に影響を与える太陽電池内部の電位分布を、今回新たに開発した電子線ホログラフィー法を用いて、ナノメートルレベルで可視化することに世界で初めて成功しました。本技術により、発電特性の違いによる電位分布の変化を捉える事が可能になりました。今後、この技術を用いた観察・解析を進めることにより、太陽電池の最適な設計指針が得られ、高効率な太陽電池の開発に貢献できると期待されます。


1.本研究の概要
 現在、太陽電池パネルは、多結晶または単結晶シリコンを用いたものが主流でありますが、多量のシリコン材料を必要とし、資源やコスト、重量などの問題があります。一方、アモルファスシリコンを用いた薄膜太陽電池は、数百分の一の原材料で作製でき、軽量かつ大面積化も可能でありますが、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する効率が低いという問題が残されています。
 一般に、アモルファスシリコン薄膜太陽電池は、 p型半導体層、i型半導体層、n型半導体層を順に積層した「p-i-n接合」を有し、i型半導体層内部にできる電位勾配(電場)を利用して光電変換が実現されています。エネルギーの変換効率を向上させるためには、最適な電位分布が形成されるような作製プロセスや材料の選択を行う必要があり、その設計指針を得るうえで電位分布の可視化が重要であります。
 本研究では、電場や磁場を可視化できる透過型電子顕微鏡法(電子線ホログラフィー)を従来以上に高度化した技術を開発し、アモルファスシリコン薄膜太陽電池内部の微弱な電位分布をナノメートルスケールで定量観察することに世界で初めて成功しました。さらに、本技術を用いて、発電特性の異なる太陽電池を観察・比較し、電位分布の相違が発電特性に影響を与えている状況を把握することが可能となりました。これにより、太陽電池材料の最適な設計指針が得られ、高効率な太陽電池の開発に貢献できるものと期待されます。また、今回開発した技術は、他の次世代太陽電池(化合物系太陽電池や多接合型太陽電池)の研究開発のみならず、その他の半導体材料(有機ELやLEDなどの発光デバイス)など、幅広い応用が期待できます。


2.本研究の詳細
 今回、電子線ホログラフィー観察に用いたアモルファスシリコン薄膜太陽電池の模式図を図1(a)に示します。ガラス基盤上に透明電極層(ZnO/TiO2)やアモルファスシリコン層(a-Si)、 裏面電極層(ZnO/Ag)が成膜されています。a-Si層(厚さ400〜500 nm)の両端には、ホウ素(B)とリン(P)が図の部分に適切にドーピングされ、p-i-n半導体接合が形成されています。図1(b)に、a-Si層内のバンド図を示します。バンド図とは、半導体内部の「伝導帯」、「禁制帯」、「価電子帯」の領域を示したもので、横軸は半導体の位置、縦軸は電子のエネルギーを示し、i層内の傾斜は電位勾配(電場)を意味します。太陽光が照射されると、a-Si層内の電子はエネルギーを受け取り励起され、電子は伝導帯に上がり自由電子となります。自由電子は、i層内の電位勾配に従ってn型半導体側へ移動します。また、電子の抜け殻(正孔)はp型半導体側へ移動し、この電子と正孔の移動により太陽光から電気エネルギーを得ています。このエネルギーの変換効率を向上させるためには、a-Si層内の電位勾配が適切に形成されているかがキーポイントであり、電位分布を定量的に可視化することが高効率な太陽電池の開発に重要となります。
  電子線ホログラフィーは、電場を観察する透過型電子顕微鏡法として発展してきました。しかし、太陽電池内部の電位分布は、微弱かつ微小領域に形成されているため、従来よりも計測感度と空間分解能を向上させる必要がありました。本研究では、位相シフト電子線ホログラフィーと呼ばれる手法を用い、従来法と比べて3倍の感度、8倍の空間分解能を達成し、a-Si層内に形成された電位分布を定量的に可視化することに成功しました。(図2参照、説明は次のページより)

図1. アモルファスシリコン(a-Si)薄膜太陽電池の
(a) 構造の模式図
(b) p-i-n 接合のバンド図と発電メカニズム
太陽光によって、a-Si層内で電子と正孔が生成され、それぞれn型半導体、p型半導体領域に移動することによって発電する
図2. a-Si層のTEM象(背景の白黒写真)と電子線ホログラフィーによって計測されたa-Si層内の電位分布像(カラー写真)
(a) 発電特性が比較的高い太陽電池のTEM像と電位分布像
(b) A-B間の電位プロファイル
(c) 発電特性が比較的低い太陽電池のTEM像と電位分布像
(d) C-D間の電位プロファイル
発電特性の低い太陽電池では、i層内の電位分布が平坦になっている


 図2(a)に、a-Si層周辺における通常の透過型電子顕微鏡(TEM)像(背景の白黒写真)と電子線ホログラフィーによって得られた電位分布像(カラー写真)を示します。また、図2(b)には、図2(a)のA-B間における電位分布のラインプロファイルを示します。通常のTEM像では、p、i、n型半導体の領域は観察できていませんが、電子線ホログラフィーでは、はっきりとその領域が観察されています。また、電位分布のラインプロファイルから、p-i接合部の電位ドロップ、i-n接合部の電位ドロップ、さらにはi層内の電位勾配も定量的に観察できていることがわかります。
 図2(c)および図2(d)は、発電特性が比較的低いa-Si薄膜太陽電池の観察結果を示します。発電特性が良好な図2(a)、 2(b)の太陽電池に比べて、i層内の電位分布が平坦になっていることがわかります。このようにi層内の電位勾配が無くなると、太陽光によって生成された電子と正孔が、p型とn型の半導体側に移動しづらくなるため、発電特性が低下したと考えられます。
 以上のように、今回開発した高感度電子線ホログラフィーを用いて、a-Si薄膜太陽電池内部の電位分布を定量的に可視化できるようになりました。また、本技術を用いることにより、発電特性が異なる太陽電池の動作解析ができ、高効率な太陽電池の開発に貢献できるものと考えられます。


【用語説明】
・p型半導体: 電荷を運ぶキャリアとして正孔(ホール)が使われる半導体である。正孔は正の電荷を持つ。シリコンなどの4価元素の半導体に、ホウ素(B)などの3価元素を微量にドープすることによって作られる。
・n型半導体: 電荷を運ぶキャリアとして電子が使われる半導体である。電子は負の電荷を持つ。シリコンなどの4価元素の半導体に、リン(P)などの5価元素を微量にドープすることによって作られる。
・i型半導体: 不純物元素がドープされていない純粋な半導体である。真性半導体と呼ばれる。
・発電特性: 太陽電池の発電特性を示すパラメーターの一つに「曲線因子」と呼ばれる指標があり、これは太陽電池の電流−電圧特性の良さを表します。この曲線因子の値が大きければ、太陽電池の最大出力が大きくなり発電特性が向上します。本研究では、曲線因子の高い太陽電池(図2(a)、 2(b))と低い太陽電池(図2(c)、 2(d))のサンプルを観察し、その電位分布を比較しました。


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