2016年9月15日 |
本研究の【概要/詳細】
1.現状と課題 |
強誘電体材料(注1)はインクジェットプリンターヘッドやスピーカーなど様々な電子機器にアクチュエーター(注2)として使用されています。また、強誘電体メモリ(FeRAM) (注3)は大容量高速読み書き可能な次世代メモリとして注目されています。このように私たちの生活に欠かすことの出来ない強誘電材料ですが、その多くには有害な鉛や希少元素が使用されているため、環境に優しく安価な強誘電材料の開発が現在盛んに行われています。また、強誘電体の多くは図2(a)のような酸素八面体構造であり、新しい構造による強誘電体が発見されれば、強誘電材料開発を大きく進展させることになると期待されています。 |
2.研究手法 |
今回、我々は四面体構造からなる酸化亜鉛[図2(b)]に注目しました。強誘電体の特徴に、外からの電場の向きを変えると物質の電荷の偏りのプラス、マイナスが反転すること(分極反転)があり、この分極反転のしやすさが強誘電体の性能を決定する要因のひとつです。そこで、どのくらいの電場をかけたときに酸化亜鉛にどのような変化が起こるのかを、最新の第一原理計算手法(注4)を用いて解析しました。 |
3.研究成果 |
本研究により、酸化亜鉛の電荷の偏り(分極)の方向が外から与えられた電場によって、電場と同じ方向になるように亜鉛が動き分極反転するメカニズムが示唆されました。図1に今回予測された酸化亜鉛の強誘電性発現のメカニズムを示します。今回用いた計算手法により、この分極反転のしやすさを知ることが出来ます。計算の結果、酸化亜鉛の分極反転のしやすさは強誘電体として知られているチタン酸鉛[図2(a)]と近い水準であったため、四面体構造から出来ている酸化亜鉛が強誘電体となる可能性があることがわかりました。さらに、酸化亜鉛の格子定数(注5)を制御にすることによって、強誘電性が現れやすくなることが明らかになりました。一方で、今回の計算結果は酸化亜鉛は電場の影響により結晶構造が大きく歪むことを示しています。これは、分極反転の途中で結晶にひびが入ってしまう可能性が高いことを意味しています。本成果を受けて、酸化亜鉛の強誘電性を実験的に確認するためには、ひびを抑制するため体積変化の影響が小さく、格子定数を制御しやすい薄膜化が有効な手法のひとつとして考えられます。 |
4.今後の展開 |
本成果を基にし、酸化亜鉛の強誘電性の実験的な確認に向けて研究を進めていきます。酸化亜鉛のように非鉛で安価な材料が強誘電体として実証されれば、環境に優しい強誘電材料開発に大きく貢献できると期待されています。今回の知見は、強誘電体材料の開発に新たな設計指針を与えることができ、さらに色々な構造の解析を計算から進めることにより、材料開発に飛躍的な進歩が起こることが期待できます。 |
図2. (a) チタン酸鉛(PbTiO3)[酸素八面体構造] | (b) 酸化亜鉛(ZnO)[酸素四面体構造] |
【用語説明】
|
本研究の概要はこちら
<< 戻る |
内容に関するお問合せは下記まで。
|