理論計算を用いたイオン伝導体を安定化させる添加元素の効率的探索とその実証に成功
~新材料開発へのマテリアルズインフォマティクスの適用~
2017年4月26日
I【概要】
1 現状
燃料電池や酸素センサーに利用される酸化物イオン伝導体(注1)は、元素添加によりイオン伝導性や安定性などの特性を制御できることが知られています。しかしながら、添加元素の種類・組合せの探索には試行錯誤的な実験が必要で、多くの時間を要していました。そのため、より効率的な新しい材料開発手法が求められていました。
2 本研究の成果
ファインセラミックスセンターの設樂研究員らは京都大学・NIMSと共同で、材料と情報科学の融合であるマテリアルズインフォマティクス(注2)を活用し、第一原理計算(注3)と実験を組み合わせて高安定性・高イオン伝導体の開発に成功しました。本研究では、安定性に課題があるBi2O3を対象としました。まず、網羅的な理論計算によりデータベースを作成し、Bi2O3を安定化する元素を探索しました。その結果、ニオブ(Nb)とタングステン(W)という元素が安定化に有効であることを見出しました(図1(a))。これらの予測を基に試料を合成し、想定通り長時間安定性を実現することに成功しました(図1(b))。
3 今後の展開
本成果を基にし、マテリアルズインフォマティクスによる短期間での材料開発に関する研究を進めていきます。本研究のような材料設計手法は汎用性が高く、電池材料や誘電材料・磁性材料など幅広く適用が可能であり、新材料開発の超高速化が期待されます。
本成果は2017年4月25日に米国物理学協会誌「Chemistry of Materials」電子版に掲載されました。
本研究の一部は、JSPS科研費新学術領域研究「ナノ構造情報」(課題番号25106005)、JSPS科研費「基盤研究A」(課題番号15H02286)、JSPS科研費「特別研究奨励費」(課題番号12J02608)およびJST「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ (MI2I)」の一環として実施した結果から得られた成果です。
II【本研究の詳細】
1 現状と課題
燃料電池や酸素センサーに利用される酸化物イオン伝導体(注1)の1つに、エルビウム(Er)という元素を添加することで安定化させた、安定化Bi2O3が存在します。この材料は非常に高いイオン伝導度を示しますが、500℃付近の中温域では長時間安定に存在することができません。この問題の解決策の1つとして他の元素をさらに添加することが挙げられます。しかしながら、どのような元素をどのような組合せで添加するかについては試行錯誤的な合成実験が必要で、多くの時間を要していました。そのため、より短時間での材料開発・効率的な材料設計に向けて課題が残っていました。
2 研究成果
本研究では、材料科学と情報科学の融合であるマテリアルズインフォマティクス(注2)の考え方から、データ駆動型の材料開発を目指しました。まず、第一原理計算(注3)により様々な添加元素がBi2O3の特性に与える影響(相転移温度、酸素イオンの動きやすさ、固溶エネルギー)を予測し、データベース化しました。このデータベースを基にBi2O3を安定化する元素を探索した結果、ニオブ(Nb)とタングステン(W)が非常に有効であることが示唆されました(図2)。これらの予測を基に実際にEr、NbおよびWを添加した試料を合成し、目的の結晶構造を長時間安定させることに成功しました。また、イオン伝導度の時間変化の測定により、伝導度の低下を抑制できていることを確認しました(図3)。この値は500℃100時間温度保持後のイオン伝導度としては、これまでの最高物質の5倍の伝導度となります。
3 今後の展開
本成果を基にし、マテリアルズインフォマティクスを活用して材料開発期間を大幅に短縮する手法に関する研究を進めていきます。添加元素の効果を理論計算によって見積もる手法は汎用性が高く、電池材料や誘電材料・磁性材料など幅広く適用が可能であり、新材料開発の超高速化に結びつきます。また、理論計算・情報科学による材料設計が進むことで、今後の材料開発が加速度的に発展し、材料のみならず他産業の牽引役となることが期待されます。
図2. 理論計算による添加元素の効果