太陽エネルギーから高温熱源を創る薄膜材料において世界最高効率を実現
~CO2フリー水素の「エネルギーキャリア」システム構築に向けて~ 熱しやすく 冷めにくい 夢の材料を実現
2017年7月5日
I【概要】
① 現状
海外での豊富な太陽光を活かして水素を創り、運びやすい液体燃料に変換して日本国内へ運んで利用できれば、CO2フリーのエネルギーチェーンを構築できます。その起点となる太陽エネルギーと水からの水素製造において、最も効率的なプロセスになると期待できる方法の一つが太陽熱による水素製造であり、その太陽エネルギーから熱への変換効率(注1)が高く、さらに高温(650℃)下で動作できるデバイスの開発が求められています。
② 本研究の成果
一般財団法人ファインセラミックスセンター(代表 高田雅介所長)の奥原研究員らは株式会社豊田自動織機と共同で、「集熱管」(注2)と呼ばれる太陽光を熱に変換するデバイス(図1 (a))の開発を進め、その集熱管の外周面を「太陽エネルギーを吸収しやすく、熱エネルギーを逃がしにくい」表面とすることで変換効率の向上に成功しました。つまり、太陽光のみをよく吸収するとともに、熱ロスの原因となる赤外線の放射を抑える薄膜材料を見出したということです(図1 (b))。その結果として変換効率を向上でき、特に高温域では10%以上もの効率向上に成功しました(従来技術で650℃仕様の光学選択吸収膜(注3)を作製した場合に比べて)(図2 (b))。
本研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」(管理法人:JST)の委託研究課題「高温太陽熱供給システム」によって実施されました。
③ 今後の展開(将来ビジョン)
本成果の光学吸収選択膜を適用した集熱管を作製し、海外の太陽熱プラントなどにおいてそのエネルギー変換効率の高さを実証することで世界展開に向けたアピールを図り、CO2フリー水素社会およびエネルギーキャリアのシステム構築に繋げたいと考えています。
用語説明
注1) 変換効率
入射した太陽エネルギーに対する熱媒体を加熱した熱量の割合である。図1(b)に示した吸収率スペクトル(実測値)と、太陽光スペクトルおよび放射熱スペクトル(温度によって変化)から次式によって求めることができる。
注2) 集熱管
ステンレス管の外周面に下記の「光学選択吸収膜」を設けて太陽光を熱に変換する。一方、管内にはオイルや溶融塩などの熱媒体を流し、その熱媒が高温に加熱されて熱利用設備に送られる。
注3) 光学選択吸収膜
エネルギーの入力となる太陽光を吸収するとともに、高温となった集熱管表面から赤外線として放射されて逃げるエネルギー損失を抑えるための膜である。その放射によりエネルギーが逃げる割合を示す「放射率」は「吸収率」に等しいという関係があるため、赤外域の吸収率を低下させることで放射による損失を抑えられる。そのため、「太陽光波長域は吸収するけれども赤外波長域は吸収しない」という選択性をもたせることが高効率なエネルギー変換に直結する。
II【本研究の詳細】
① 現状と課題
トラフ型と呼ばれる雨どい形状の集光ミラーにより太陽光を集め400℃程度の熱を生み出して利用する太陽熱発電プラント(図1 (a))が最も普及しており、世界各国にてすでに稼働しています。その温度を高めることで発電や水素生成の効率を高めることに繋がるものの、高温になるほど太陽光から熱への変換効率が低下することが知られていました(図1 (b))。本研究は、太陽光の吸収率を高めるとともに、高温下(650℃)においても効率低下を抑えることで変換効率を高める「光学選択吸収膜」の設計と成膜を目指したものです。
② 研究成果
本研究にて設計・成膜した薄膜材料では、太陽光を吸収する半導体材料として、安全かつ安価な元素で構成される胃β-FeSi2を選定しました。その理由は、そのバンドギャップが太陽光の吸収に適するとともに、薄膜中にてナノ粒子として分散させることで光学特性をコントロールでき(図2 (a))、かつ高温でも安定となる膜構成を見出すことができたためです。その結果、従来の金属ナノ粒子を利用した光学選択吸収膜よりも優れた吸収特性を得ることができました(図1 (b))。つまり、太陽の波長帯の光はこのβ-FeSi2によってほぼ90%以上吸収されるとともに、赤外域ではこの半導体は吸収せずほぼ透過するため、金属層(図2 (a)ではモリブデンMo層)の低い吸収率(=低い赤外放射率)を活かせるため赤外放射損失がほとんどありません。その結果として、変換効率を向上させることに成功しました(図2 (b))。