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2016年6月29日


窒化物半導体GaN/AlGaN界面に形成される高密度電子層を可視化することに成功 〜 次世代パワーデバイスの研究開発が加速! 〜

本研究の【概要詳細

 電気自動車やハイブリッド自動車のさらなる省エネ、高性能化に向けて、各種モーター駆動や電力の制御・変換に必要となるパワーデバイスの特性改善が必要不可欠です。従来より、シリコン(Si)を用いたパワーデバイスが使用されていますが、材料物性に起因する性能限界に近づいており、その限界を大きく超える窒化ガリウム(GaN)を用いたデバイスの開発が期待されています。GaNは、その特徴的な材料物性から、低損失かつ高耐圧な電力スイッチングが可能であり、また、室温から数百℃の高温まで安定にデバイスが動作するなど優れた特長を有しています。そのため、GaNがあらゆる機器に使用されると、社会全体として大幅な省エネが実現できます。

 GaNをパワーデバイスとして応用するためには、通常、GaNとAlGaNなど、異なる材料をナノメートルスケールで接合(「ヘテロ接合」と呼ばれています)し、トランジスタを作製します。そのトランジスタ特性に大きく寄与するのが、界面に形成される高密度の電子の層です(これを「2次元電子ガス層」と呼ばれています)。デバイス内では、この高密度な2次元電子ガス層を精密にコントロールすることにより、電力のスイッチングや増幅が行われています。そのため、デバイスを高い信頼性で動作させるためには、2次元電子ガス層が設計通りに形成されているかが重要になります。

  しかしながら、この電子ガス層は数〜十数ナノメートルの非常に狭い領域で局在化しているため、これまで容易に観察、確認することができず、たくさんのデバイスを作製し試行錯誤的に研究開発が行われているのが現状です。そこで本研究では、これまで独自に開発してきた超高感度電子線ホログラフィー技術を用いて、GaN/AlGaNヘテロ界面に形成される2次元電子ガス層の可視化を試みました。

 図1(a)は、GaN/Al0.25Ga0.75N界面の透過型電子顕微鏡像です。通常の電子顕微鏡像では、その界面ですら見極めるのが困難です。図1(b)と1ページ目下図に、電子線ホログラフィー法で観察した電位分布像を、図1(c)に横方向のラインプロファイルを示します。矢印で示すように、界面からGaN側に明るいコントラストが観察され、鋭く立ち上がった電位分布が形成されていることがわかります。この部分が2次元電子ガス層による電位分布であり、高い分解能で極めてクリアに可視化することに成功しました。

 今回開発した計測技術を用いることによって、GaN系トランジスタ内部の機能を直接的に観察することが可能になりました。その結果、次世代パワーデバイスの最適な設計指針が得られ、研究開発のスピードも飛躍的に向上することが期待されます。また、本技術は、GaNのみならずSiCやGaAsなど、その他の半導体材料にも応用可能であり、機能性デバイス全般に対して、幅広い応用が期待できます。



【用語説明】
・電子線ホログラフィー: 透過型電子顕微鏡を用いた計測手法の一つであり、電場や磁場を定量的に観察できる特長を有する。電場中を透過した電子波(物体波)と真空中を通過してきた電子波(参照波)を干渉させ、電場の情報を記録した電子波干渉パターンをCCDカメラで撮影する。その後、干渉パターンをコンピュータで画像解析することにより、電場を可視化することができる。
・ヘテロ接合: 一般に、異なる材料を原子レベルで接合したものをヘテロ接合と呼びます。GaNとAlGaNの接合や、GaAsとAlGaAsの接合など、さまざまな種類の接合が研究されています。
・2次元電子ガス層: GaNとAlGaNでは、原子の格子間隔が微妙に異なるため、界面では歪みが生じる。この歪みよって材料中の電子状態が変化し、界面近傍に高密度の電子が滞留する。この層を2次元電子ガス層と呼ばれている。


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