用語説明
注1)プロトン伝導性酸化物
材料内部で水素の陽イオンであるプロトン(H+)が伝導可能な酸化物。
注2)ペロブスカイト型
結晶構造(原子の規則的な並び方)の一つで、ABO3の化学式を持つ。AとBは異なる種類の陽イオンである。図2左に例としてジルコン酸バリウムBaZrO3(A=Ba; B=Zr)を示している。Bイオンが6つのOと強固に結合し、BO6八面体を形成する。このBO6八面体がOを共有することでネットワークを作り、その隙間をAイオンが埋めている。酸化物の代表的な結晶構造の一つであり、様々な機能を持つ化合物が報告されている。
注3)ハイスループット計算
計算技術により大量のデータを獲得する計算手法のこと。本研究ではスーパーコンピュータと自動化プログラムを活用して、様々な酸化物の機能と合成しやすさに関するデータを取得した。
注4)固体酸化物形燃料電池
酸化物を固体電解質注8)として用いた燃料電池(SOFC: Solid Oxide Fuel Cell)。水素等の燃料と酸素によって生じる化学エネルギーを高効率に電気に変換可能な電気化学(発電)デバイスである。
注5)水素社会
水の電気分解による水素生成、水素の輸送や貯蔵、燃料電池等を用いた水素による発電など、水素を軸とした技術を通じて、カーボンニュートラルの実現を目指す社会のこと。
注6)アクセプター元素(ドーパント)
あるホスト化合物に含まれる陽イオンよりも、価数の低い陽イオンとなる元素のこと。例えば、Bi3+に対するPb2+のことを言う。アクセプター元素を添加すると、電気的中性を保つために酸化物イオン(O2-)が欠損した空孔が形成される。この酸化物イオン空孔の場所に水蒸気(H2O)が入り込み、分解することによって、酸化物中にプロトン(H+)が導入される。
注7)シレナイト型
結晶構造の一つで、A12BO20の化学式を持つ。図2中にBi12SiO20(A=Bi; B=Si)を示している。Biの特殊な結合性によって生じる珍しい結晶構造である。その構造のほとんどを、Aが5つのOと結合したAO5多面体が占め、その隙間を強固に結合したBO4四面体が埋めている。この構造を有するプロトン伝導体は全く知られていなかったが、本研究により初めてそのプロトン伝導性が発見された。
注8)固体電解質
材料内部でイオンが伝導可能な固体物質。金属や半導体では電子が移動することによって電流が生じるが、固体電解質では電荷を持ったイオンが移動することで電流が生じる。プロトン伝導性固体電解質では1価のプロトン(H+)が移動する。電子よりもイオンが移動しやすくなければ、固体電解質としては利用できない。
注9)ユーリタイト型
結晶構造の一つで、A4B3O12の化学式を持つ。図2右にBi4Ge3O12(A=Bi; B=Ge)を示している。こちらもBi等の特殊な結合性によって生じる珍しい結晶構造である。この構造では、Aが6つのOと歪んだAO6八面体を形成し、それらを強固な結合を持つBO4四面体が繋いでいる。
注10)第一原理計算
経験的な実験結果を参照せずに、分子や結晶の構造情報から量子力学に基づいて電子状態、エネルギー、原子間に働く力等を計算する手法。いくつかの構造のエネルギーを比較することによって、ドーパント固溶や水和反応の起こりやすさを評価することが出来る。
注11)機械学習
何らかのアルゴリズムにより、機械(コンピューター)にデータの規則性等を学習させ、データの予測や分類を可能にする方法。
注12)イオン半径
イオンの大きさ。物質中でイオン化した原子が球形であるとみなした時の、その半径のこと。
注13)電気陰性度
原子が電子を引き寄せる強さのこと。陽イオンになりやすい元素で低く(例:Li+、Na+)、陰イオンになりやすい元素で高い(例:O2-、Cl-)。
論文情報
タイトル:Discovery of Unconventional Proton-Conducting Inorganic Solids via Defect-Chemistry-Trained Interpretable Machine Learning
著者名:Susumu Fujii, Yuta Shimizu, Junji Hyodo, Akihide Kuwabara, Yoshihiro Yamazaki
掲載誌:Advanced Energy Materials
DOI:10.1002/aenm.202301892
山崎仁丈教授からひとこと:
極めて難しい非ペロブスカイト系プロトン伝導性酸化物の発見を効率的にできる手法開発に成功しました。本手法をさらに拡張することで、多種多様な材料やデバイスを加速的に開発し、カーボンニュートラル社会の実現に貢献できる日が来るのが楽しみです。