東京大学大学院工学系研究科の永井隆之特任助教、木村剛教授(社会連携講座「新しい物理現象を用いた次世代環境配慮デバイスの開発」特任教授)らによる研究グループは、日本原子力開発研究機構の萩原雅人研究員、ファインセラミックスセンターの森分博紀主幹研究員らと共同で、結晶構造に由来するカイラリティ(注1)と電気トロイダルモーメント(注2)の結合に基づく新しい強誘電性(注3)発現メカニズムを提案し、実際に一次元磁性体SrM2V2O8(M = Ni,Mg,Co)において本メカニズムに従う強誘電性を実証しました。
磁性や電気伝導性を併せもつ強誘電体は、電気磁気効果(注4)や非相反現象(注5)といった新たなデバイス原理になり得る特異な物性発現の舞台であることから、これまで精力的に探索が
行われてきました。しかしながら、従来の強誘電体の探索指針の下では、Ti4+やNb5+といった磁性や電気伝導性を担うd電子(注6)をもたないカチオンを含む物質が有望とされてきた経緯があり、その指針の下では磁性・導電性強誘電体の探索は困難でした。
本研究では、対称性の観点から、結晶構造のカイラリティと電気トロイダルモーメントの結合が強誘電性を誘起するという新しいメカニズムを提案し、実際にそのメカニズムに基づく強誘電性をSrM2V2O8(M = Ni,Mg,Co)という磁性元素を含む物質群において実証しました。本研究をきっかけに新しい強誘電体、特に磁性・導電性強誘電体の開発が加速することが期待されます。
本成果は、2024年8月8日(米国東部夏時間)に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載されました。