GaNの結晶欠陥を大面積且つ非破壊で検出・分類する方法を開発
~青色LEDから電力制御素子まで、GaN結晶の高品質化を加速~
2018年7月9日
I【概要】
① 現状
低炭素社会の実現に向け、電力の変換・制御に使用するパワーデバイス注1の高効率化が求められています。次世代のパワーデバイス用材料の有力な候補として注目を集めているのは、青色LEDの材料としても活用されている窒化ガリウム(GaN)です。ところが、現行の製法によるGaN結晶には欠陥注2が多く含まれているので、期待される性能を十分に発揮できていません。欠陥を低減するためには、欠陥分布情報を結晶成長条件にフィードバックすることが必要不可欠であり、欠陥を正確に非破壊で検出・分類する技術が強く求められています。
② 本研究の成果
JFCCは、KEKと共同でGaN結晶に含まれる様々な欠陥を短い測定時間且つ非破壊で検出するX線トポグラフィ観察法注3を確立し、欠陥種類と大面積にわたる各種欠陥の分布を正しく特定することに成功しました。欠陥の周囲は結晶面が湾曲しているので、X線の回折像が乱れ、スポット像を作ります(図1)。欠陥1個でスポットが1つ作られるので、スポットの分布が欠陥の分布を示します。更に、観察条件を変えてスポットの明暗や形状の変化を調べることで、欠陥の種類を正確に判定することができます。
図1:(左)大面積のX線トポグラフィ像 (右)欠陥に対応するスポットの拡大像
③ 今後の展開
本成果を利用することにより、大面積の欠陥情報を正確に結晶成長にフィードバックでき、GaN結晶の低欠陥化が加速されます。また、GaNパワーデバイス・発光デバイスの不良解析と故障原因同定にも役立ちます。高品質GaN結晶の実現によって、次世代の高耐圧・大電流・低損失のパワーデバイスの実用化が可能となります。
本研究成果は、下記に開催の2018年度JFCC研究成果発表会で発表しました。
7月6日(金)(東京会場:東京大学武田先端知ビル武田ホール)
7月13日(金)(名古屋会場:愛知県産業労働センター(ウインクあいち2F、5F))
7月20日(金)(大阪会場:梅田スカイビル(タワーウエスト36F))
本成果は2018年4月5日にSpringer「J. Electron. Mater.」電子版で公開されました。
本成果は、国立研究開発法人 科学技術振興機構スーパークラスタープログラム「GaN結晶評価技術の開発」の委託研究にて得られたものです。
用語説明
注1) パワーデバイス
電力変換・制御用半導体素子のこと。整流ダイオード、パワートランジスタなどがある。
注2) 欠陥
結晶欠陥のこと。原子配列が乱れた部分。
注3) X線トポグラフィ観察法
X線回折を利用して、結晶内の欠陥や結晶面湾曲などを2次元マッピング画像として撮影・観察する方法。
II【本研究の詳細】
① 研究の背景
近年、「第4の革命」と言われるように、化石燃料消費の抑制、電気自動車の普及、再生可能エネルギーの高度な利用など、エネルギーの消費と生産の構成が大きく変わっています。エネルギー、特に電力を無駄なく高効率で利用するためには、高耐圧・大電流・低損失のパワーデバイスで電力を変換・制御する必要があります。こういったパワーデバイスは、従来シリコン(Si)を原料として作られていましたが、その性能は理論限界に近づいてきています。更に性能の高いパワーデバイスの実現には、窒化ガリウム(GaN)のような広禁制帯幅注4を持つ半導体材料が必要です。ところが、GaNに結晶欠陥が高密度に存在すると、理論的な性能が実現できないだけでなく、デバイスの長期信頼性も懸念されます。GaN結晶の欠陥を低減するためには、欠陥分布情報を成長条件にフィードバックすることが必要不可欠であり、大面積にわたる欠陥を非破壊で検出・分類する手法の確立が重要な課題となっています。
② 実験方法
X線トポグラフィ観察法は、結晶からの回折X線を回折強度分布画像として検出する方法です。JFCCとKEKは共同で、KEK物質構造科学研究所の放射光科学研究施設(フォトンファクトリー)でGaN結晶欠陥のX線トポグラフィ観察を行いました。図2はX線トポグラフィによるGaN結晶欠陥検出の原理を示します。高輝度・高平行のX線をGaN結晶表面に入射すると、ブラッグ条件を満たす結晶格子面によりX線回折が生じます。欠陥周囲においては、結晶面が湾曲しており、X線が完全結晶と異なる方向に回折されるため、欠陥に対応するスポット像が作られます。観察条件を変えて、スポットの明暗や形状の変化を調べることで、欠陥の種類を正確に判定することができます。
③ 研究成果
X線トポグラフィ観察により、大面積の欠陥分布を可視化することに成功しました。図1に示すように、最適化したX線波長、入射角度および回折面を適用することにより、大きさや明暗、形状の異なるスポット状コントラストが形成され、スポットの特徴が欠陥の種類を反映しています。更に、X線の入射方向を60度ずつ変えて、6つの等価な{11-26}回折面を利用し、同一場所のX線トポグラフィ像を取得しました(図3)。({11-26}のような表記は結晶格子面の方向と傾きを示す指数です。)図中のTD1を例にすると、この欠陥は、図3(d)と(e)においては暗スポットとして検出されていますが、残りの4つの像においては明スポットとして検出されています。このようにX線入射方向の変化に従い、“2暗+4明”の欠陥コントラスト変化が現れ、欠陥周囲における原子ズレの面内方向が示唆されています。大面積にわたり、欠陥種類やその分布の詳細を非破壊で評価できました。
本手法は、JFCC独自のエッチピット欠陥検出法注5や電子顕微鏡による欠陥構造解析技術と融合することにより、更に高精度の欠陥分類ができます。
図3:6つの等価な{11-26}回折面によるX線トポグラフィ像
④ 今後の展開
本研究の成果を利用することにより、結晶成長条件と各種欠陥の発生の関連を高精度で調べることができ、成長条件最適化の所要時間が大幅に短縮されます。また、加工プロセスにより導入された欠陥も可視化できるので、GaN結晶製造工程全般の品質管理に役立ちます。今後は、本手法を更に高度化し、パワーデバイス故障の要因となる欠陥種類の特定へ応用する予定です。
論文情報
https://link.springer.com/article/10.1007/s11664-018-6252-3
用語説明
注4) 禁制帯幅
結晶のバンド構造において電子が存在できない領域。
注5) エッチピット欠陥検出法
化学的エッチング反応により形成されたエッチピット(穴)を通して欠陥を検出する手法。