<< 戻る | 2011年7月7日 |
コンピューターの演算能力の飛躍的な向上は、これまで実施するのが困難だった膨大な量の計算が実現可能となっている。その恩恵を受け、材料学分野において“第一原理計算”と呼ばれるシミュレーション技術が近年注目を集めている。第一原理計算は、ある物質において原子がどのように配置しているのかという位置情報を入力することで、その物質の持つ原子構造、電子状態、エネルギーなどに関する情報を得ることができる。実験などで事前に求めたパラメーターに頼らずに、量子力学の基本理論(第一原理)に基づいて計算するというのがこの技術の最大の特徴である。第一原理計算を用いれば、ある条件下において材料がどのような状態に変化するのかというシミュレーション、あるいは新しい物質がどのような特性を持つのかという予測計算が可能である。
ファインセラミックスセンター ナノ構造研究所のナノシミュレーショングループは、この第一原理計算技術を固体酸化物燃料電池の理論解析に応用した。固体酸化物燃料電池(Solid OxieFuel Cell: SOFC)は、電解質に酸化物のようなセラミックスを用いる燃料電池である。SOFCでは、電解質の中を酸素イオン(O2-)や水素イオン(プロトン、H+)が流れることで発電する。イオンの流れやすさ(イオン伝導度)はSOFCの発電能力の大小を決定する要因の一つである。「たくさんのイオン」が「容易に流れる」ことでSOFCの発電能力は上昇する。 我々は第一原理計算を用いて、所定の温度や雰囲気条件の下で固体電解質中にどの程度の点欠陥が存在するのか定量評価する技術を確立した。イオンが流れるイオン伝導という現象は点欠陥を媒介として発現するため、点欠陥の量を把握することはSOFCの設計において極めて重要である。プロトン伝導型の固体電解質であるBaZrO3という酸化物に着目して技術開発を行った結果、合成時の条件によってはイオン伝導に寄与する点欠陥の量が大きく変動し、場合によっては最適条件の1/10以下にまで点欠陥の量が低下してしまうことが明らかになった。電解質セラミックスの合成においては作成条件を精確に制御することが必要不可欠であることを意味している。 SOFCに限らず、セラミックス材料の特性は点欠陥に支配されていると言っても過言ではなく、その存在量を定量的に把握することは材料開発において非常に有意義である。開発した第一原理計算技術を今後は様々な機能性セラミックスの物性解析に応用したいと考える。 |
図 固体酸化物燃料電池の発電メカニズムの模式図
(左)酸化物イオン伝導型、(右)プロトン伝導型
図 BaZrO3中の点欠陥生成挙動の合成条件による違い
(左)BaO過剰な条件、(右)ZrO2過剰な条件
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