プレスリリース

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2015年6月30日


高温において保護膜中の物質の移動量を定量的に予測することに成功【世界初】 〜次世代航空機用エンジン部材開発に貢献〜


 次世代航空機エンジンなどに用いる耐熱構造材料の表面に付着して使用する保護膜に対し、高温において酸素の透過性を評価することにより、保護膜中の物質の移動量を予測することに世界で初めて成功しました。本技術を用いることにより、保護膜の性能を高温で長期間維持するための使用条件や丈夫な保護膜の構造を提案することができます。今後、この材料の設計指針を基に開発した保護膜を、軽量で耐熱性に優れるSiC繊維強化SiC複合材(以後、SiCf/SiCmと称す)に適用することにより、次世代航空機エンジンの燃費とCO2排出量を大幅に削減することが可能になるものと期待されます。


本成果は、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「【革新的構造材料】」(管理法人:JST)の委託業務の結果得られたものです。


 航空機エンジンの燃費を改善しCO2排出量を大幅に削減するには、構造部材の"軽量化"と"耐熱性の向上"が不可欠です。SiCf/SiCmは、これらの特性を併せ持つことから、次世代の航空機エンジン用部材として大いに期待されています。しかし、SiCf/SiCmは高温の酸素・水蒸気を含む燃焼環境下において、酸化・減肉により劣化することが問題となります。したがって、この部材を適用するためには、部材表面を守り長期使用を可能にする保護膜(EBC:Environmental Barrier Coating)が必須になりますが、その材料の一つとしてムライト膜が注目されています。
 本研究では、ムライト(Al6Si2O13)膜の高温の酸素に対する遮蔽性やその環境下での膜構造の安定性を評価・解析するため、高温においてムライト単膜の上下面を異なる酸素濃度の環境に曝すことにより、酸素の遮蔽性を評価・解析しました。その結果、ムライト膜を介した酸素の透過は、高酸素濃度側から低酸素濃度側への酸素イオンの拡散と、それと逆方向へのAlイオンの拡散により支配されることが明らかとなりました。また、これらのイオンはムライトの結晶粒界を優先的に移動することがわかりました。さらに、一連の解析結果を基に、世界で初めて膜厚方向の上記イオンの物質移動パラメータ(拡散係数、流束)を予測する方法を提案しました。これらの物質移動パラメータは、EBCの酸素遮蔽性を高温で長期間持続させるための使用条件や丈夫なEBC構造の提案に活用できます。例えば、ムライトを構成する二つの陽イオン(Al、Si)の内、Alイオンが優先的に移動すると、その結果として、低酸素濃度側表面近傍のAlイオンが欠乏しムライトが相分解します。このことは、ムライト膜をEBCに使用した際に、膜の剥離につながります。そこで、予測した物質移動パラメータを用いれば、相分解を抑制し膜の密着性を長時間持続することが可能な使用条件を提案することができます。また、酸素遮蔽性に加えて、水蒸気遮蔽性、高密着性などの複数の機能をもつ多相積層構造のEBCを設計する場合、EBCを構成する各層の構造安定性と環境遮蔽性を最大限に引き出すことが可能な最適構造を提案することもできます。
なお、成果発表会では、耐熱合金の酸化保護膜として知られているアルミナ(Al2O3)膜の場合についても報告する予定です。


【用語説明】
・ムライト: アルミナ(Al2O3)とシリカ(SiO2)からなる複合酸化物(Al6Si2O13)。
・EBC: 高温において環境遮蔽性に優れる保護膜(EBC:Environmental Barrier Coating)。
・流束と拡散係数: 不純物元素がドープされていない純粋な半導体である。真性半導体と呼ばれる。
・発電特性: 流束とは、単位時間当たり単位面積を通過する物質の移動量のことであり、物質の濃度勾配に比例する。この比例定数を拡散係数と呼ぶ。



ムライト膜中の物質移動機構
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