航空機エンジンの燃費を改善しCO2排出量を大幅に削減するには、構造部材の"軽量化"と"耐熱性の向上"が不可欠です。SiCf/SiCmは、これらの特性を併せ持つことから、次世代の航空機エンジン用部材として大いに期待されています。しかし、SiCf/SiCmは高温の酸素・水蒸気を含む燃焼環境下において、酸化・減肉により劣化することが問題となります。したがって、この部材を適用するためには、部材表面を守り長期使用を可能にする保護膜(EBC:Environmental
Barrier Coating)が必須になりますが、その材料の一つとしてムライト膜が注目されています。
本研究では、ムライト(Al6Si2O13)膜の高温の酸素に対する遮蔽性やその環境下での膜構造の安定性を評価・解析するため、高温においてムライト単膜の上下面を異なる酸素濃度の環境に曝すことにより、酸素の遮蔽性を評価・解析しました。その結果、ムライト膜を介した酸素の透過は、高酸素濃度側から低酸素濃度側への酸素イオンの拡散と、それと逆方向へのAlイオンの拡散により支配されることが明らかとなりました。また、これらのイオンはムライトの結晶粒界を優先的に移動することがわかりました。さらに、一連の解析結果を基に、世界で初めて膜厚方向の上記イオンの物質移動パラメータ(拡散係数、流束)を予測する方法を提案しました。これらの物質移動パラメータは、EBCの酸素遮蔽性を高温で長期間持続させるための使用条件や丈夫なEBC構造の提案に活用できます。例えば、ムライトを構成する二つの陽イオン(Al、Si)の内、Alイオンが優先的に移動すると、その結果として、低酸素濃度側表面近傍のAlイオンが欠乏しムライトが相分解します。このことは、ムライト膜をEBCに使用した際に、膜の剥離につながります。そこで、予測した物質移動パラメータを用いれば、相分解を抑制し膜の密着性を長時間持続することが可能な使用条件を提案することができます。また、酸素遮蔽性に加えて、水蒸気遮蔽性、高密着性などの複数の機能をもつ多相積層構造のEBCを設計する場合、EBCを構成する各層の構造安定性と環境遮蔽性を最大限に引き出すことが可能な最適構造を提案することもできます。
なお、成果発表会では、耐熱合金の酸化保護膜として知られているアルミナ(Al2O3)膜の場合についても報告する予定です。
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