世界で初めてアルミナのレーザー焼結に成功
~セラミックス3D プリンターの実現に道~
2017年7月3日
I【概要】
① 現状
セラミックスの製造では、高温で焼く工程が不可欠です。多くの場合、電気炉やガス炉を用いて、数十時間の熱処理を行います。現在、試作や小ロット製品の製造にも同程度の時間を要していることから、積層造形(3Dプリンター)を用いた短時間製造プロセスへの期待が高まっています。
② 本研究の成果
ファインセラミックスセンターでは、高強度のレーザーを用いる新たな製造技術の研究開発を進め、「電気炉不要の夢の製造技術」と言われてきたレーザー焼結に、世界で初めて成功しました。この技術は、セラミックスの積層造形のコア技術であり、新しいセラミックス製造プロセスの実現に向けた第一歩です。
同センターの木村主任研究員らは、汎用セラミックスのひとつであるアルミナ(酸化アルミニウム)のレーザー焼結に取り組み、新たに開発した2つの要素技術*1によって、短時間・高効率のレーザー焼結を可能にしました。この技術では、10秒間のレーザー照射で厚み300ミクロンの層を焼結することができるため、将来的には現在の金属造形と同程度のスピードでセラミックスの積層造形ができると期待されます。
*1 2つの要素技術:
①高密度に原料アルミナ粒子が充填した層を形成する技術
②ーザー吸収の低いアルミナを高効率でレーザー加熱する技術
③ 今後の展開
本成果は、セラミックスのレーザー直接造形を実現する画期的成果です。要素技術の高度化、対象材料の拡大を進め、新たなものづくり技術としての実用化を進めていきます。
本研究は、内閣府が実施する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)革新的設計・生産技術(管理法人:NEDO)の「高付加価値セラミックス造形技術の開発」の成果です。
II【本研究の詳細】
① 現状と課題
セラミックスのレーザー焼結は「電気炉不要の夢の製造技術」といわれ、1990年代から欧米を中心に研究開発が行われてきました。しかし、高強度レーザー照射によってセラミックスが溶融して非晶質になったり、局所的に焼結はするものの部材全体を焼結することは困難だったりと、多くの技術的課題が未解決でした。我々は、従来のセラミックス製造技術、つまり、(a)焼結前に高密度の成型体を製造する、(b)割れないように加熱する、を、レーザー焼結に応用するため、(a')高密度のアルミナ層を作製する、(b')割れないようなレーザー加熱手法を開発する、という課題を立てて、研究開発を進めてきました。また、薄い層の焼結工程を繰り返す積層造形への適用のため、(b")短時間で加熱・焼結する、ことも検討してきました。
② 研究成果
(a') 高密度のアルミナ層を作製する
図1~2に、50~60体積パーセントのアルミナ粒子を含む原料スラリーを、新技術で脱脂して得られたアルミナ層の概観写真と断面SEM像を示します。平滑な表面を有し、グリーン密度80パーセント以上の高密度アルミナ粒子層が、わずか5分の加熱処理で得られます。焼結前のため、この試料を、たとえば水の中に入れると、再びばらばらの粉の状態に戻ります。
(b') 割れないようなレーザー加熱手法を開発する
金属造形で用いられている数10ミクロンの細いレーザービームをセラミックスに照射すると、その部分の温度が急激に上昇して膨張し、部材全体が割れてしまいます。我々は、数ミリ~数センチの比較的大きな面積にレーザーを照射することで、このようなレーザー照射中の破壊を回避できることを明らかにしました。
(b") 短時間で加熱・焼結する
比較的緻密なアルミナ原料層であっても、レーザー吸収が小さい(レーザーで加熱されにくい)ため、一平方センチあたり10数キロワットのレーザーを30秒照射しても、焼結は表面から5ミクロンの深さまでしか進みません。我々は、新開発のレーザー吸収アシスト層を表面に作製してレーザーを照射することにより、一平方センチあたり100~300ワットのレーザーを10秒間照射すると、表面から50~300ミクロンの深さまで焼結できることを明らかにしました(図3)。このアシスト層は、容易に除去可能で、下地の目的部材と反応することもなく、さまざまな材料系に適用可能です。
③ 今後の展開
本成果をセラミックスの3Dプリンターへ展開するため、研究を加速していきます。3Dプリンターは、これまでの電気炉を用いた大量生産に対して、多品種少量生産や、セラミックス部材の短時間試作に適した製造方法だと考えられています。一つ一つ形状の異なる生体用セラミックス材料の迅速製造や、セラミックス部材の研究開発サイクルの短縮を通じて、セラミックス産業におけるものづくりを革新していきたいと思います。
図1 基材に塗布したアルミナスラリーの脱脂による粉末充填層の様子
図2 新開発の脱脂法によるアルミナ粉末充填層の断面SEM像
図3 レーザー吸収アシスト層を用いたレーザー焼結層の断面SEM像