固体酸化物形電解セル(SOEC)の電極/電解質界面に由来する抵抗の評価技術の開発に成功
2019年7月9日
I【概要】
1 現状
固体酸化物形電解セル(SOEC)※1は最も高温で作動する電気化学セルで、高効率で水蒸気の電気分解が可能なため、再生可能エネルギーで発電した電力を燃料という形で貯蔵する目的に利用することが期待されております。SOECの基本構造は水素極※2/電解質※3/酸素極※4の三層積層構造で、電極(水素極・酸素極)と電解質との界面が機能を発現する重要な場となります。したがって、機能発現の場である電極/電解質界面をいかに機能を阻害することなく、健全に構築するか※5が性能向上、および耐久性向上の鍵となります。そのため、電極/電解質界面の重要な機能の一つである界面由来抵抗成分を評価する技術は必要不可欠なものです。しかしながら、従来技術では、界面由来の抵抗成分を明らかにするためには条件が異なる単セルを複数準備する必要がある上、試料間のバラツキによる測定精度の課題がありました。
2 本研究の成果
一般財団法人ファインセラミックスセンター(JFCC)は、電極/電解質界面に由来する抵抗成分の評価方法について検討し、図1のような試験片を用いて種々の端子間距離で抵抗成分を評価しました。その結果、各抵抗成分には端子間距離に依存する成分と依存しない成分があることを見出し、端子間距離に依存しない成分として電極/電解質界面に由来する抵抗成分を評価する手法の開発に成功しました。(詳細は次ページ以降で説明)
本研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託業務「水素利用等先導研究開発事業/水電解技術高度化のための基盤技術研究開発/高温水蒸気電解技術の研究開発」(平成30年度~)で東芝エネルギーシステムズ株式会社(東芝ESS)から再委託を受けて実施しました。
図1 評価用試験片と評価結果。V1-V6、V2-V5、V3-V4間で電圧を測定することで、同一試料を用いて種々の端子間距離における抵抗成分が評価可能。端子間距離に依存しない抵抗成分(R3-R2)が電極/電解質界面由来抵抗成分
3 今後の展開
本評価法は、既存セル構成材料の特性評価や、新規電解質材料・新規電極材料の材料適合性評価に適用することで、高性能なSOEC開発を加速することが可能です。
本研究成果は、下記に開催した2019年度JFCC研究成果発表会で発表しました。
7月12日(金)(名古屋会場:愛知県産業労働センター(ウインクあいち2F、5F))
7月19日(金)(東京会場:東京大学 武田先端知ビル 武田ホール)
用語説明
※1 構成要素が全て固体の電気化学デバイスの一種で、水蒸気の電気分解によって水素を製造する水蒸気電解セル(SOEC)
※2 供給された水蒸気が電気分解され、水素が発生する反応場
※3 酸化物イオンのみを通すことができる固体酸化物で、水素極で生成した酸化物イオンを酸素極へと運ぶ役割を担う。
※4 水素極から電解質を通ってきた酸化物イオンが電子を与え、酸素が発生する反応場
※5 固体酸化物形電解セルは全て固体セラミックスで構成されているため、界面を構築するためには高温での熱処理が必要となり、その際に、材料の組み合わせによっては高抵抗相が形成される場合がある。
II【本研究の詳細】
1 現状と課題
固体酸化物形電解セル(SOEC)は、全て固体材料が使えるために劣化が少ないことや、高温作動であるため高効率で水蒸気の電気分解が可能なため、再生可能エネルギーで発電した電力を燃料という形で貯蔵する目的に利用することが期待されております。SOECは水素極材料、電解質材料および酸素極材料を積層した、三層積層構造がその基本構造であり、水素極/電解質界面、および酸素極/電解質界面はSOECの機能を発現する重要な場になります。したがって、機能発現の場である電極(水素極・酸素極)と電解質との界面をいかに機能を阻害することなく、健全に構築するかが性能向上、および耐久性向上の鍵となります。そのため、電極/電解質界面の重要な機能の一つである界面由来抵抗成分を評価する技術は必要不可欠なものです。しかしながら、従来技術では、界面由来の抵抗成分を明らかにするためには電解質厚さや電極面積が異なる単セルを複数準備する必要がある上、試料間のバラツキによる測定精度の課題がありました。
2 研究成果
一般財団法人ファインセラミックスセンター(JFCC)は、電極/電解質界面に由来する抵抗成分の評価方法について検討しました。その結果、同一試料を用いることで試料間のバラツキを避け、精度良く評価可能な手法の開発に成功しました。まず、評価用試料として、電極材料を介して接合した棒状の2本の電解質材料に複数の端子を付与した試験片を作製しました(図2)。その後、V1-V6間、V2-V5間、V3-V4間の種々の端子間距離において交流インピーダンス測定※6を行うことにより、試料内の種々の抵抗成分を評価しました。
図3に、種々の端子間距離において測定した交流インピーダンス測定結果を示します。交流インピーダンス測定では、評価時の交流周波数に依存して種々の抵抗成分(バルク抵抗や粒界抵抗)が評価されます。例えば、電解質由来のバルク抵抗は、端子間距離に比例して増加することが分かっております。
図3 種々の端子間距離で測定した交流インピーダンス測定結果
(左) 種々の周波数におけるインピーダンス応答の実部(Re)と虚部(Im)のプロット
(右) 種々の周波数におけるインピーダンス応答の虚部(Im)と周波数(f)のプロット
評価結果を端子間距離に対してプロットすると(図4)、種々の抵抗成分のうち、端子間距離に依存する抵抗成分(R1、R2-R1、R3)と端子間距離に依存しない抵抗成分(R3-R2)があることが分かりました。この結果から、端子間距離に依存する抵抗成分は電解質由来の抵抗成分であり、端子間距離に依存しない抵抗成分は電極/電解質界面由来の抵抗成分であることが分かりました。本評価法では、同一試料を用いるため、測定における試料間のバラツキを避けることが可能で、精度良く電極/電解質界面由来の抵抗成分を評価することが可能となります。
3 今後の展開
今回開発した電極/電解質界面由来抵抗の評価技術は、これまでに各メーカーが開発してきた既存セル構成材料の特性評価や、新規電解質材料・新規電極材料の材料適合性評価に用いることができます。本技術を用いることで高性能なSOEC開発を加速することが可能となります。
用語説明
※6 時定数を持った抵抗を含む、電池内部に構成される複雑な回路の各抵抗成分を評価するための手法で、試料に種々の周波数の交流電圧を印加し、電流変化を測定することで各抵抗成分を評価する方法。