金は化学的に安定な材料ですが、数ナノメートルの超微粒子にして金属酸化物の表面に固定することで高い触媒作用を発現することが知られています。ただ、その反応機構は充分に解明されておらず、反応が起こる場所(反応サイト)も諸説が提案されていました。そこで我々は、ガス雰囲気下でサンプルを観察することが可能な“環境電子顕微鏡”を用いて、ガス反応中の触媒を直接観察し、生成物が生じる様子を動的に可視化すれば、その発生箇所を反応サイトとして特定できると考えました。
通常、電子顕微鏡の内部は真空のため、ガス中での触媒反応を観察するには特殊な装置(試料ホルダー)が必要です。そこで我々は、隔膜と呼ばれる極薄膜(厚さ10ナノメートル以下)で試料設置空間を真空領域から分離し、そこにガス供給および排気ができる装置を開発しました(図1)。これを用いて、混合ガス(プロピレン、酸素、水蒸気)の圧力を約0.5気圧にコントロールしながら金ナノ触媒サンプルに導入し、電子顕微鏡で観察を行いました。
撮影した動画からピックアップした像を図2に示します。いずれも中央の黒い粒子が金で、その下部に酸化チタン基板が映っています。(a)は触媒反応が起こる前の像で、金・酸化チタンとも表面には何も生じていません。ここにガスが導入されて反応が始まると(b)の矢印で示す部分に反応生成物が発生しました。この物質はガス分析などの結果から、プロピレンオキサイドであることが分かりました。一方、ガス供給を止めて試料の周囲を真空に戻すと、(c)のように触媒表面からプロピレンオキサイドが消失することが確認されています。以上の結果から、金ナノ粒子触媒の反応サイトは、図3のように『金と酸化チタン基板の接合界面周囲』であることが判明しました。これは、提案されていた反応モデルの中のひとつと符合しており、その妥当性を直接証明する成果と言えます。
本研究で開発した反応サイト可視化技術は、他の触媒材料にも応用できる可能性があり、産業界で活用されている様々な触媒の活性向上、高機能化などに貢献できると期待されます。
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